このたび実施したRCA-7DXのリボン張替えについての記録です。
RCA-77DXのリボン周り修理は過去2回経験してきましたがいずれもリボンのテンション調整程度で済んできました。
今回の例ではいよいよ「リボン交換」以外にない」と判断。
リボン張りはAIWAやハンドメイドのリボンマイクでは随分練習してきましたが
珠玉の77DXでそれをやる時が来た。
まずはこのマイクと十分親しくなっておきたいのでご挨拶。
凹んだり変形しているところがありますね、「お疲れ様です」
こうしてやさしく直してマイクと仲良くなっておくとマイクだって喜びます。
(リボン取り外し)
1時間前にTVを消して静かにお茶を飲み深呼吸、おもむろにリボン固定ネジを上下4箇所外したとき、もう後戻りできないことに戦慄を覚えました。
モーター部から傷んだリボンを取り外した
それは超えなくてはならない「一線」を超えたことを意味し、押しつぶされそうな恐怖感と期待とが入り混じったものでありました。
USA LEBOW COMPANY製
(なぜかMade in Japan、日本の金箔職人による作品かもしれない)
「Alminum Foil」と書かれていますがキッチンの「アルミホイル」とはかなり異なり、厚みは世界標準の1.8μ(1μは1/1000mm)です。このサイズで計算すると価格はキッチン用の500~600倍になりますが必須の貴重材料です。
(材料の切り出し)
切り出しの様子は自分では撮れないため掲載出来ませんが、切り出したあとがこれ、これが「命」です。
この切り出しには15cmの金指(シンワ製JIS1級)、一部に0.5mm目盛りのある携帯用を使いました (100均のモノとは品質・精度が違います)
①カッターやハサミでは切れません
②薄刃の「フェザー」または「貝印」のカミソリ刃を使います
③生地からのカットは2つ上の生地写真の状態で行います。
(材料を取り出した無垢の状態では切ったものが丸まってしまいます)
④金指で「1.5mmの切断を練習し、それより0.2mm(コピー用紙の厚さ)細い「幅1.3mm」が目測で平行に切れるようにする。
(この際ヘッドルーペなど厳禁、裸眼で、裸眼で、目測で)
⑤切断角度は5度をめどに手前にゆっくり一気に引きます。
(コルゲーション成形)
いろいろな方法がありますが、もっともハードルが低く成功率の高い方法です。
ヒダの深いほど発電量が多い(感度が高い)、その半面磁極間に収める難易度が一挙に高くなること、そして出音を左右左右する重要な点である。
(微鉄粉除去)
磁極の間におびただしい数の微鉄粉が吸い付けられているのが見えますね。
見えにくい場合は保存、拡大してみてください、「ゾッ」とします。
これは自分は精密ドライバーの一番細いのを使って磁極のスキマを行ったり来たりさせながらドライバに付着した微鉄粉を拭きおとしました。
徹底的に清掃し、最後は高倍率(5倍以上)のルーペで残りがないか確認します。
これが残っていると異物が振動の節目になるため低域が出にくくなり、なにかの余韻や高音圧でビリツキを生じます。
(リボン装填)
これが「リボン交換」最大ハイライトであります。
S・N磁極ギャップ1.5mmの中に左右の磁極に一切触れずにコルゲーションでグニャグニャした幅1.3mmの極薄リボンを収納するという。
左右の磁極とのスキマはわずか0.05mm、職人作業といわれる由縁か。
裸眼でないと距離感がつかめずやりにくい。
サイズがちゃんとしていれば問題ありません。
[いかにして磁極に触れさせず、ド真ん中に貼れるか]
目で見ちゃいけません
ヘッドホンモニターで自分の声と周囲騒音だけでやります。
!指向性は「B」=両指向性、低域減衰SW:「0」
とりあえず音は出ますのでリボン位置の偏りと浮き沈みを竹ピンセットや妻楊枝などを使って、整えて行きます。
ネジはそのたびに緩めたり締めたりしながらです。
左右の磁極に当たっているときは一旦緩めて、楊枝の先を使います、リボンはすぐに電極に張り付きますので根気が要ります。
調整中リボンが切れてしまったらもう一度最初から。
さっきとは違い、難なくできるようになっているはずです。
なおこのチェッケには十分に77DXの音を知っている必要があります。
特にない場合は借用を含めてリファレンスとなる見本マイクが必要です。
なぜならば、それほど個性の強いマイクロホンだからです。
(指向性チェック)
リボンマイクの基本である「B」=両指向性から始め、6通りの指向性においてそれぞれ正しい音を確認します。
*単一指向性は77DXでは「U」ではなく「L3」であることに注意
かくしてリボン張替えが完了しました
ここまでの間に音質調整まで済んでいますので保護メッシュや絹布、そしてメッシュスクリーンを取り付けます。
そして完成へ
指向性切り替えおよび低域減衰SWとその表示目盛りの位置をあわせる。
このあと十分サウンドチェックののち「完成」。
【あとがき】
およそ70歳になるこの名機、すでに国内でリボン交換の道はないと聞きます。
Shinはマイクロホンをさわりだして10年めになりますがどんなマイクより難しく、
それでいてそこはかとない魅力、それは独特な「ビロードの音色」だと思います。
高域が足りない、近接効果がすごい、そして取扱いが繊細だ、とするこのリボンマイク、その頂点にあるのがこのマイクであろう。
クセの強いやつだが国産モノや新製品リボンマイクにはない大御所の貫禄は誰もがうなる。
この修理記録は若いエンジニアにぜひリボンマイクの心臓部「リボンの張替え」に興味をもってほしい、そして77DX、44BX、Aベロと、この技術を絶やすことなくビロードの音色を後世に伝えたい。
そんなShinの想いを受け継いでください、私もまだまだ勉強します。
以上
(お知らせ)
fetⅡ、fet(Ⅱi)、fet3 など、ご注文により人気機種の製作を承っておりますのでお問い合わせください (いまや希少となったパナソニック WM-61Aとオリジナル・パーツで製作)
(Shinの「ファンタム式パナ改マイク」は従来通りPanasonic WM-61A使用です)
モノ作り日本もっと元気出せ!
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