ファンタム電源方式は
ノイマンが 規格化した平衡伝送線路にコンデンサマイク用DC48V電源を重畳させるという画期的方式です。
この48Vという電圧は元々、電話自動交換機の世界で用いられてきた電圧。
その頃は(英・米)のストロージャー方式(48V)と(独)ジーメンス方式(60V)とがあり、1926年日本でも東京京橋局でストロージャー方式が、横浜中央局でジーメンス・ハルスケ方式が採用された経緯があります。やがて局線電圧は48Vに統一され、クロスバ交換機を経て電子交換機へと進化しました。
このような歴史のなかでドイツ ノイマン社が48Vという電圧を選んだのは不思議な経緯ではありますが。
コンデンサマイクに必要な電源は二種類です。
ひとつは「成極電源」、もうひとつは「プリアンプ電源」です。
カプセルがECMの場合は「ECM電源」と「プリアンプ電源」となります。
主旨の違う電源をファンタム電源から導きだし、そのケーブルでマイク音声信号を伝送するという曲芸的動作を可能にしたのが「ファンタム電源方式」です。
あらためて、このようなシステムです
①48Vの電源に対し、かならず6.8kΩの抵抗が②③に対して入る決まりになっています。
卓側がトランス受けの場合は3.4kΩが1本用いられます。
②コンデンサマイクには抵抗で分圧された必ず48Vより低い電圧が供給され、マイクに加わります。
③成極電圧は普通このファンタム電源をDC-DCコンバータで昇圧して供給され、プリアンプ部はTRなどアクティブ素子につながるかトランスが間に入ります。
④ECMのファンタム動作は成極電圧の代わりにECM用電源(1.5V~10V)を回路上で生成して動作させます。
(ファンタム電源方式の痛しかゆし的事情)
つまり3本の電線を通じて2系統の電気回路を併存させて、相互に極力影響を与えず独立して動作させる工夫は見事なものです。
※供給側(卓側)電源が信号側に対し可能な限り影響を与えない為には「内部抵抗の高い直流電源」であることが求められる。
▲内部抵抗の高い電源回路=レギュレーション(電圧変動率)が悪い電源。
といわれる通り、負荷による電圧変動が大きい、質の悪い電源である。
電源の受端側(マイク側)では電源の内部抵抗(6.8kΩX2パラ)と負荷(マイク側)とで分圧された電圧がマイクの動作電圧になる、という仕掛けです。
したがって結局どんな高級卓を用いても、どんなコンデンサマイクであっても例外はありません。
思い込みを排して考えていくと絶対に48Vでは動作させることはできないことがわかります、それは「希望的妄想電圧」以外のなにものでもありません。
また内部抵抗の高い電源は負荷側から見た場合ひとことで言えば「フラフラな電源」といえます、この電源と平衡型マイク信号伝送路と併せてトラブルなく使いこなすワザは自分でも誤解から始まり、筋道正したりしてステップバイステップで身に着けていきました。
今回の記事はそんな自分のためへも大切なことをまとめてあります。
各コンデンサマイクのファンタム駆動時の電気的な違いです
この表からわかる通り、卓から48V供給してもコンデンサマイクは決して48Vで動作しているわけではありません。
◎ココが肝心
また、距離が100mや1km延びたとしてもそのケーブル抵抗でマイクに加わるファンタム電圧は「まったく」変化ナシと云っていい程のレベルです。
疑問に思うかたはケーブルロスが100Ω、1kΩを仮定して計算してみてください。
◎さらに肝心なのが
プロの現場、「うちの小屋はケーブルを300mくらいは延長しているからファンタム電圧は結構落ちるんです」と云われたりしますが、それは何の根拠もない思い違いか代々語り継がれた迷信であることが良くわかると思います。
「ウチの卓ではマイク側に48V出ているよ」というエンジニアの方、それはでマイクを接続しない「開放電圧」を測っていますね。
マイクを接続してそれが48Vだったらむしろオタクの卓、かなり怪しい不良品です。
(つぶやき)
若い世代、特にニコ生放送や「YOUTUBER」の高校生年代~社会人に至るまでコンデンサマイクの動作知識のない方々は次のように疑問や誤解をしています(下記)
この客層に対する適切な情報の提供は重要だと考えています。
・ファンタム電源というものがあるらしい。プラグインパワーと同じものじゃないのか、よくわからないけど・・・
・ジャーン!買っちゃった。コレ、コレ、コンデンサマイク。「スタジオ・放送用」っていうやつ、な なんとココPCに差すだけでいい音で・・・
・ファンタム電圧48Vってバカじゃないの危険だし。
・何で48Vなんて高い電圧使うの?コンデンサマイクってエレコムのスタンドマイクでスカイプだって普通に使えるじゃん、
・なんでわざわざ面倒くさいマイクを使うの?普通に差して使えるのが一番いい (レコーダーやPC、スマホやに対し)
◎そもそもバランス伝送を知らない層なのでコンデンサマイクを求めて、使い方がわからない為YAHOO知恵袋に駆け込んだりしている。
そしてUSBマイクは知っていてもファンタム動作環境など頭の隅にさえないないいユーザー層(想像以上に多い)
PC周辺機器としてのマイクには不満足だがそこから先は2種類に分かれる。
1つはプラグインパワーで動作するヨリマシなマイクを求める。
もう一つはオーディオI/Fを入手して初めてファンタム動作を知る。
などなど、これは例のAMAZON「超激安コンデンサマイク改造」 の関連でいろいろな方に遭遇してまいりましたが、客層の大きな違いこそあれ、非常に良い勉強になりました。
私が本当に憂慮にしているのは、プロのエンジニアの多くがファンタム電源システムのこの事実を知らないこと。
そちらのほうが初心者の右往左往よりはるかに問題が大きいことです。
以上
以上
(お知らせ)
fetⅡ、fetⅡi、fet3など、ご注文により人気機種の製作を承っておりますのでお問い合わせください (オリジナル・パーツで製作)
(Shinの「ファンタム式パナ改マイク」は従来通りPanasonic WM-61A使用です)
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