はじめに
2010年 iphone4 にMEMSマイクが採用され、それをきっかけに現在までに組込みマイクは従来のECMからMEMSマイクへとほとんど置き換わりました。
MEMSマイクを使った自作マイクも選択肢となった現在、筆者がこれまで特に(2014年~2021年)の間に経験して学んできた事実からその扱いの特徴などをご紹介してまいります。
当初、ECMのようにもっと安易に扱えるデバイスだと思い込んでいました、しかし深入りするにつれ今までの自作の感覚では困難なことがわかり、独特なその特徴を蓄積してまいりました。
MEMSマイクという量産デバイスを自作向けにレシピ確立させるには「壊してはじめて検証できる」宿命とノウハウがあったのです。
(はんだ付けにによる熱破壊について)
「2006 :自作マイクのMems化に朗報、 ICS-40720、730の手半田法完成」
をあわせてご参照ください。https://ameblo.jp/shin-aiai/entry-12574034452.html
本来MEMSマイクは「熱に強い」が売りのはずだが、実際には簡単に「熱破壊」する。それは本来リフロー用パーツであり「手半田」を一切考慮されていない量産デバイスだからである。
MEMSマイクは機械的×電気的折衷デバイスであり、一般的な手半田では「部分的な熱偏移」により複合デバイスとしてメカ部分の不可逆的な変形が起こり熱破壊に至る。
(手半田を成功させるために)
これを避け、手半田を成功させるためには「SOLDERING PROFILE」の
範囲でデバイスに対しあらかじめ均一な「熱偏移」を与えるバーニングにより安定化できる、これこそが「プレヒート」と呼ばれる手半田を可能とする唯一の方法といえる。
何をおいても、まず「プレヒート」・・・おおむね100度1分間をめどに一般的手半田に耐えられる状態に安定化できることが判明、成功率は100%、これ以外の手半田手法はないことが判明している。
プレヒートには小型のヒートガンが使いやすい、風で飛ぶので両面テープにMEMSマイクを張り付けるのが適している。
そのあとの線付けもそのままでよい。
プレヒート有無による結果の比較が過去記事「2006」にあります。
(半田付け)
MEMSマイクの電極は非常に小さく、一般半田で時間をかけたはんだ付けは適していない。
「クリーム半田」を使い、一瞬で予備半田する。
クリーム半田は熱を加えると半田化して予備半田される、また予備半田された電極への線つけの為の半田付は慣れた普通のコテで一瞬で行う。(320~370度)
容量の小さな「精密コテ」で長時間かけることの方が危険です。
MEMSマイクの外ケースがGNDに落ちている場合、落ちていない場合とがある、しかしケースには絶対に半田付けをしてはならない。「熱破壊」します。
安全な半田付け例
(使用線材もケタ違いに細く最太でもAWG-28、それ未満のAWG-32、AWG-36などの線材を普通に使用します)
クリーム半田 AMAZONの例
(熱を加えると溶けた半田になります)「ペースト半田」とも呼ばれているので大昔からある半田付け用「ペースト」と間違えられやすい、同一場所に売られているが、予備知識を持ってくれぐれも勘違いなきように。
次は「電気的破壊」に関するノウハウです。
(これは想像を超える個数の破壊によって検証された事実ですが正しく使用する限り破壊することはありません)
(電気的衝撃による破壊について)
ECMと比較し圧倒的にVDD電圧は低く適正電圧範囲も狭い。
ECMでは1個のFETのみであるのに対し、MEMSマイクでは「OP-AMP」で構成されているという大きな違いがある。
(このような場合破壊する)
・ ECMでは何ともないような「一瞬の高圧印可」で確実に破壊する。
・ VDDの極性を誤ると簡単に破壊する。
・ 誘導性の電源をVDDとした場合ON/OFFで簡単に破壊する。
・不安定接続が繰り返されるブレッドボード試作中破壊する。
・ 指定VDD電圧範囲で使う。(高いと破壊、低いとランダムノイズのみ)
・ 複数のMEMSマイクをパラ(入力・出力共)に使うと破壊する。
・ 出力に他からのDC電圧が加わると破壊する。
・ 直流的に相互に関係しあう「アレー」構造ではこれらのどれかに該当すれば破壊は複数のMEMSに連鎖する。
と、マジ驚かしますが、正しく使う限り正常なのはいうまでもありません。
(壊れた場合の音)
・「ブチブチ」とランダムノイズ混じりで音声が聴こえる。
・ハム混じりの無音
・「ブツブツブツ」の音だけ。
・レベルがガクンと落ち、SN比が極端に悪くサーノイズの嵐となる。
(破壊したMEMSマイク)
(ICS-40730が多いのは筆者が好んで使うからであり、この品種が特に壊れ易いわけではない)
筆者の手元に保存されている実験中に発生した残骸(電気的破壊)だけでもこのようなわけですので、ECMとはまったく別次元のデリケートさを克服する必要があります。
当初からの「熱破壊」を含めた合計破壊数はご想像ください。
(残骸)
上の残骸はほぼすべてが筆者の実用化手探りの中で発生した「電気的破壊」の残骸です。
デバイスの破壊との闘いナシにMEMSマイクはマスターできませんので筆者にとってノウハウ蓄積の為にどれだけ壊れてもかまいません。
したがって、はじめての自作のかたが2個3個と購入してもまったく意味のないことをご想像ください。
電気的な「禁じ手」、「設計不良」による破壊はECMとはケタ違いに簡単に発生する。
ただし、MEMSマイク使用で完成後のマイクロホンは正規の電気的条件で使うかぎり破壊することはない。
(MEMSマイク評価基板、実装モジュール使用の自作について)
MEMSマイク評価基板や実装モジュールを使用して「マイクロホン」を製作することはできる、しかし大きく割高であることと「超小型」というMEMSの特徴は全部失われます。
評価基板、実装モジュールでこの作例のような製作は絶対不可能です。
作例の一部
世界で1番細い2mm径のマイクロホン(Micro Leaf Ⅱ)
ICS-40720の差動型とシングル型のファンタムAMPとのセット例
(さいごに)
ECMによるマイクの自作を想像して始めたMEMSマイク・クラフトですが、安易に手を出しても成功確率はきわめて低いことはご承知の通りですが、何が問題なのか今回の記事を「ノウハウ集」としてご活用いただけば幸いです。
これらMEMSマイクの弱点を知って「ツボをおさえて」取り組めば自作に安全なデバイスとして確実に生かされるようになります。
いろいろハードルはあっても消極的にならず、まずは先行すること、誰よりも早くカタチにする事こそ未来をひらく決定的な鍵であると私は考えています。
以上
おしらせ
fetⅡ、fetⅡi、fet3、LZⅡb など、読者のかたからのご注文により人気機種の製作領布を承っておりますのでお問い合わせください (いまや貴重品、秋月のパナソニック WM-61Aとオリジナル・パーツで製作します)
FetⅡmems、およびProbeⅡ(Mems)マイク使用も同様にリリースしています。
モノ作り日本もっと元気出せ!
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