今回の記事はコンデンサマイクロホンに関し必要な知識・スキルと資格を持つ音響家・舞台音響家を対象としています。複数のC-451E(EB)が手元にあり比較視聴できることも前提としています。
安易に一般アマチュアのかたが手を出すことは避けていただくのが賢明です。
前記事「第1編」の続編です。
背景
C-451E(EB)は接触不良問題のほかカプセルのCK-1が吹かれに弱く、長期運用のなかで取り扱いに気を付けてもダイアフラムの破れが起こりやすいのが特徴です。
CK-1カプセルはすでに入手できない今、接触不良問題もないC-451Bにやむなく乗り換えて廃棄せざるを得ない諸兄も多くいらっしゃいます。また機材倉庫で廃棄を待つ個体も多いはず。
リボンマイクのように「張替えができないか」という単純な想いから発したプロジェクトです。
AKG C-451E(EB)の CK-1張替え修復法が完成。
今回は前記事「第1編」からパワーアップして正常なCK-1との比較で同一感度・同一音、その違いを感じないところまでレベルアップさせました。
虎の子、保管新品のC-451EB CK-1とも比較、完全にOKである。
類を見ない蛮行にも見えますが、「救命の最終手段」の結果とは思えない同一音には驚かされた、まるで心肺停止状態から蘇生が成功したような結果となりました。
張替修復の終わったCK-1(左)と音質など評価リファレンスに使用したCK-1カプセル(中央・右)
マーキングシールがなければ音で区別はつけられない。
「キッチンホイルで張り替え修復したダイアフラム」、などとは誰が思うだろうか。
「保管品新品」とはこれ、ウィンドスクリーンは別です。
さて、その様子はどうだったのか、何をやったのか。
上:C-451EB 下:C-451E どちらもカプセルCK-1は共通
前回、調整中にオリジナルと同一感度・同一音に見舞われました。
カプセルを取り違えたのではないかと思った。いや、そうではない・・・
「夢か!」とも感じながら最高に幸せなこの音風景を頭に叩き込みました。容量を測ると26PFを示した。
バックプレート側にふくらんだアルミホイルが、たまたまその接触をまぬがれた結果と推察しました。
そのあとは分解を何度繰り返すも「正夢」の再現はならず。
そして止めネジも悲鳴を上げ始めているが・・・
「富士山の九合目まで来て山頂を踏まずして引き帰すつもりか」、「勇気の撤退だってあるんだ・・・」と自分の中で葛藤が続いた。
「失敗とは悲観的にあきらめることだ」という誰かの言葉が頭をかすめた。
そして、やはり「山頂をめざす、完成させる」と決めて気持ちを再起動させた。
それでもダイアフラムの平面性確保のアイデアは何もない。・・・・・
しかし、ただひとつの支えとなったのはこの手法完成を信じて待つ仲間の期待と応援です。
Aさん・Bさん・Cさん・・・と顔が浮かび絶対に裏切ることはできない、それが引き返すことのできないプレッシャーとなって自分の脳みそを活性化するエネルギーになった。
再起動後はなぜか心細さも不安感もない。それは第1編で味わった「正常音」とその「容量値」が鮮やかに頭の中でリフレインして現実の中で夢が交差しているからかもしれない。
時間は1週間しかないがそれに答えることこそが自分の責任、唯一の選択肢だと強く断じた。
(障害となっている難問は)
それはただひとつ、ダイアフラム(アルミホイル)の平滑性(まっ平であること)、
しかし実際はこの写真のように円形にしたホイルの湾曲が避けられない、裏返して伸ばそうが戻そうが必ずポテトチップのように「カール」する、さあどうする?
この湾曲しているアルミホイル振動膜に張り替える。
裏向きに装填するか表を向けるか運命の分かれ道に思えたが、こういう場面ではやはり難しい方を選ぶのが鉄則だ。
この張り方が出来ればいいのだが、方策はない。
第1編で採用した張りかた
あえてこの状態の物を使って調整した。
(アルミ箔をハサミで真円に切り出す)
箔は円形に切る必要はない、
17Φめざして切り出したガタガタの円のふちを落としていくのが確実だ。
17Φの真円になったら最後にスマホの画面などまっ平な面を使って指でシワを取っていく、裏返しながら。
これが意外だが、切り出したアルミ膜は素手で触れて何らかまわないが
気になるならばポリ袋1枚置いて上から伸ばせばいい。
(CK-1ハウジングへの実装)
上図③の動作不良状態のものが最も作業しやすい
ワッシャ、振動膜、と順に落とし込み、シールドメッシュ、バックプレートAss'yをセットし3か所のネジを締める。
(調整した手順)
① 最初は何も音が出ないだろう、「バリバリ」いうだけかもしれない、スタート点ですから。
② 「バリバリ」いうノイズが有っても嫌わずヘッドホンモニターしながら作業する。
(この先の「バリバリノイズ」を嫌がっていたら先に進まない)
③ ※何を思ったかマイクフロントを口に咥え、一瞬「フッ」と吸ってとめた。ほどなく音が聴こえだした。室内音がこれまでになく大きくまるで何もなかったように、並べた普通のシゴイチの音、感度もオリジナルと完全に同一である。バックプレートに接触していたアルミ・ダイアフラムが正規位置でバックプレートと真平行に成型されたのだ。
今回最大の難題が解決できた瞬間です。
なんと地獄の裏庭に天国があったのです。
④ この状態で出音を確認後、容量を測定。「25PF」を指した、OK!。
(20PF以上の必要があります)
⑤ 適正でない場合、ゆっくり吹く、吸うを行いモニターしながらで動作適正点を見つける。 (繰り返すほど不安定になる、吹けばバックプレートまわりも湿気でダメになる為短時間で決める)、NG判断の場合はすぐ「ふりだし」へ。
⑥ 乾燥させ、容量計(秋月のDMG6243キャパシタンスメータ)で25PF~28pFを確認、STOP。
(小容量のため他の測定器では大きく異なる値を示す、3機種使ったがこれが最も信頼できる)
⑦ 音確認テストをおこなう
(マイボイスリアルタイムモニターで音声を確認する)、感度良くオリジナルマイクとのA/B比較、オリジナルとの差がないことを確認。
「マイボイス・リアルタイムモニター」の聴感テストは測定器を超えます。
モニターヘッドホンは定番SONY 900STを使用します。
これは個人の嗜好で選んではいけません。
⑧ 机で叩くなどショックを加え、状態の変化がないこと(これが大切です)
⑨ NGである場合、繰り返すのはやめ最初からやり直す。
以上で定番の名機であるC-451E(EB)のカプセル(CK-1)の修復作業は完了です。
仕上がった時、私は放心状態、言葉は見つかりません。
第1編冒頭「どうせ機械だ!」という割り切りこそ成功への唯一の道
と言い切ったものの、この締めくくりには神仏のたぐいを一切信じない筆者でも「不可能を可能に導いてくれた」別次元の意志と力の存在を認めざるを得ない不思議な経験でした。
特記事項
翌日、修復したCK-1のマーキングシールが無くなってしまっており、どちらがどちらだかまったく分からない為2本のC-451EB、音声検証行った。
「マイボイス・リアルタイムモニター」にても全くその見分け(聴き分け)は難しく内部を確認して判明、これはどなたでも同じ目に遭うはずです。
当然うれしい結果です。
※修復したカプセル「CK-1」にはしっかりしたシールなどで「マーキング」=「オリジナルではない」として区別することが必須です、これは発案者の実体験からの忠告です。
皆様にお願いします
読者の皆様でこの修復を実施された方はShinまで状況を聞かせて下されば幸いです。
(記事末のメール窓からお願いします)
以上
おしらせ
fetⅡ、fetⅡi、fet3、LZⅡb など、読者のみなさまからのご注文により人気機種の製作領布を承っておりますのでお問い合わせください (いまや貴重品、秋月のパナソニック WM-61Aとオリジナル・パーツで製作します)
MEMSマイク使用、話題のProbeⅡおよびFetⅡmemsも同様にリリースしています。
モノ作り日本もっと元気出せ!
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