マイクロホンのノウハウは一般には原理的なことはあきらかにされているものの構造上、設計者の苦労する肝心かなめ部分は決して明かされることはありません。
今回はこれまで数々の名機を世に送り出してきたマイク設計の匠。
お名前やその社名は明かせませんが3年前、私(Shin)にそのワザのエッセンス数々を伝授していただいたときのメモがあり大切に保存してきました。
(2013年の記録から)
断片的な内容です、私とのQ&Aとご本人の話をそのときのメモの範囲ですが今あらためて皆様にご紹介します。
本件、匠にはご了解をいただいております。(茶色文字は匠の答えと話の要約です)
(単一指向性マイクについて)
無指向性マイクの常識では単一指向性マイクは作れない、特に難しいのは「軸方向単一指向性マイク」の設計。
カプセル背面の「コの字」型部分が軸方向単一指向性マイクの大きなハードルである。
ここを制するのが最初の課題となる。
(市販激安マイクの改造について質問した)
「音圧」と「速度成分」が同一に加わればひどいことになる。
(タッチノイズ固有周波数の「鳴き」について)
マイクボディを たたいた時特定の周波数の鳴きが生ずれば、それは収音する音すべてを汚す好ましくないマイクロホンになってしまう。
これは現実の製品でもかなり見かける。
(低域の出にくいカプセル〈ユニット〉で低域を伸ばすことは可能か)
カプセル・ユニットの特性以下の低域は出ない。
(ECM とDCバイアス型コンデンサマイクに音質差・性能差はあるのか)
バックプレートに電荷チャージさせる「バックエレクトレット」型では振動板(ダイアフラム)も今は同一材料であり「膜エレクトレット」型で見られた「ECM臭い」という音は微塵もない、ダイアフラムの材質で決定する要素であるので今はECMとDCバイアス型との性能差は一切ない。
但しDCバイアス型のほうが高く売れたり顧客が求めるという営業的な問題がある。
また、DCバイアス型は出力部の絶縁グレードが高く自作向きではないだろう。
(ECMのソースフォロワ使用について)
ドレイン出力ソース接地では入力インピーダンスはそこそこ高いが「Cdg」のミラー効果によって出力インピーダンスはきわめて高くなる。
ECMと接続すると周波数帯域制限を受ける。
またインピーダンス変換回路で増幅させるためひずみ率が増す、このため高音圧に耐えられない。
したがってカプセル出力はソースフォロワにして理想動作をさせるのが普通である。
ただし民生用マイクではかならずしもそこまではやらない
(エレクトレットチャージ電荷の寿命)
バックエレクトレット型:半減期が120年といわれる。
膜エレクトレット型:20年くらいでライフエンドのようだ。
DC印加でチャージの復活は簡単にできる。
(防振のキモ)
・単一指向性マイクは機械ショックに対し無指向性比10数dB敏感であり不利だ。
・ゴムも使われるがジェル(ゲル)=《某専門メーカー名あり》はものによっては「硬度0」のものも存在する、しかし元々軽いカプセルには効果が薄い場合も。
・軽いカプセルにはウエイト(おもり)を追加する、それは必ずカプセルと一体構造にする。
つまりカプセルの質量を増やすことが振動対策(タッチノイズ、ハンドリングノイズ)に有効だ。
(回路構成について)
単純・シンプルな回路のほうが当然音が良い、OEMなど高機能が求められ、複雑な回路を余儀なくされる。
(ツェナーダイオード使用について)
使いたくないが実際には使用せざるを得ないことは多い、その場合は回路を熟考する。
(ご自分の回路実例を示してご説明)
以上
(お知らせ)
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(Shinの「ファンタム式パナ改マイク」は従来通りPanasonic WM-61A使用です)
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